東京で一番古い酒蔵、金婚・屋守の豊島屋酒造さんの見学に行ってきました(1)

豊島屋酒造 看板
豊島屋酒造 外観

新型コロナの感染が拡がるこんな時ですが、新酒が出回り始める酒蔵さん応援の意味も込め、酒蔵見学に行ってきました。行き先は東京都で一番古い酒蔵、「金婚」・「屋守」の蔵元の「豊島屋酒造」さんです。

※見学は事前予約要で、見学前のアルコール消毒・体温チェック、見学時のマスク着用・ソーシャルディスタンス確保といった新型コロナ対策はきちんと行われています。

埼玉県との県境近く・都心エリアにも近い酒蔵

豊島屋酒造は西武新宿線・東村山駅から徒歩で約15分、府中街道をしばらく歩いた先にあります。“あと少し行くと所沢” という、埼玉県と東京都のギリギリ県境のところに位置しています。

東京の酒蔵というと八王子や奥多摩方面など東京都の西の方にあるイメージですが、豊島屋酒造は東京都の真ん中あたり、都内の酒蔵の中でもかなり東の方に位置する酒蔵ということになります。都心エリアにも近く、少しのどかな町中にある酒蔵さんでした。

入っていくと、まず目に入るのは煙突と井戸、それから出迎えの信楽焼のたぬき。奥には蔵、右手にショップがあります。右手のショップで訪いを告げ、いよいよ酒蔵見学です。

豊島屋酒造 正面
目に入ってくる煙突と井戸。正面は蔵、右手はショップ
豊島屋酒造 煙突とタンク
煙突と井戸水のタンク。タンクには「金婚」の文字

関ヶ原の合戦前からの生い立ち、白酒を江戸で広めた酒蔵

蔵の見学の前に、ざっと酒蔵の成り立ちについて伺いました。

関ヶ原の合戦よりも前、江戸の町づくりで賑わう神田界隈で飲み屋としてお酒の提供を始めたのが始まりだそう(当初は関西から運んできたお酒を安く提供)。その後、醸造場所を今の東村山に移して豊島屋酒造さんとして設立されたそうで、まだ江戸の町が作られる途上からの生い立ちの古さには少し驚くばかり。

また、雛祭りの時の白酒を江戸で売り出し始めたのも豊島屋酒造が始まりとのことで、「江戸名所図会」に「鎌倉町豊島屋酒店 白酒を商う図」として載っていたり、「東海道中膝栗毛」や池波正太郎などの時代小説にも多く登場していると伺い、当時の神田での繁盛ぶりが想像されます。

豊島屋酒造 右手のショップ入り口
右手のショップ。入り口に「屋守」の大樽
豊島屋酒造 ショップ入り口の杉玉
ショップの真新しい杉玉。杉玉は蔵のあちらこちらにかけてありました
豊島屋酒造 お出迎えのたぬきの置物
蔵見学のお出迎え。「屋守」の前掛けのたぬきさん

東京で寒造り、「物理は嘘をつかない」

蔵見学は、お酒造りの順番に回って説明していただきました。見学の最中も気さくにいろいろな質問にお答えいただき、あっという間の1時間。

  • まずは洗米・浸漬・蒸し米

お水は敷地内の井戸で、地下150mから汲み上げたものを使っているそうです。鉄分が入っているため逆浸透膜濾過を行っていて、結果として軟水になってしまうのだそう。

お米はザルで10Kgずつ小分けにして洗い、浸漬はお米の硬さによって細かく時間を変えて。柔らかいお米だと5分21秒とか、硬いお米だと一晩かけるものもあるとか。ひとことで “酒米” といっても、硬さや質もそんなに違うのかを実感させられる印象的なお話でした。

豊島屋酒造 タンクに「金婚」の文字
水は150m地下から井戸で汲み上げる
洗米用のザル
洗米に使うザル。10Kgずつ分けて行う
蒸米機
蒸し米は今は機械で行っている。昔の蒸し釜は今は瓶の火入れに使っているそう
  • 麹造り・酒母造り〜三段仕込み

見学は後半。麹造り・酒母造り、仕込みの蔵まで移動していきます。

酒母は、“嫌気発酵” で “強い菌” を作っているそうです。別の酒蔵さんでも「元気いっぱい・健康な酒母がよいお酒を作る」と伺ったことがあり、強さ・元気さは何においても大切なものだと再認識。酒母は作り置きなく明日には使うものだそう。

麹室
麹造り(入室せず拝見のみ)。左奥の厳重な木の扉の向こうが麹室
酒母造りのための器具
酒母造りのための部屋。真ん中は暖気樽・抱き樽(だきだる)

酒母造りのあとは、階段を上って仕込み中のタンクを覗かせていただきました。タンクの中はぷくぷくと、今まさに発酵中!日本酒が生きものだと実感します。

豊島屋酒造では、全て寒造り。一段仕込んで踊りの後、二段・三段の三段仕込みで、20日から40日で出荷されます。毎日の天気やその年の気候、その年のお米の出来栄えなど、多くの(しかも制御できない)要素が関係する酒造り。「酒自体が生き物だから違いが出るけれど、考えている味に技術で近づけて、酒質を保っている」との説明は力強く、印象深かったです。

必ず原因と結果があり、「物理は嘘をつかない」のだそうです。

豊島屋酒造 仕込みエリア
天候やお米はもちろん、タンクによって微妙な違いは出るが、思っている味に技術で近づける
仕込みタンク
仕込み中のタンク
仕込みタンクの中
タンクの中。ぷくぷくと、今まさに発酵中!

追加:移動の途中で、映画「君の名は」についても熱弁いただきました!
残念ながらあのヒット作を自分は観ていないのですが、“お酒” がテーマの映画なので、ぜひ観て欲しい!とのこと。
お酒を作って飲んでもらいたい一心の彼女が、人格も変え時空も超えて現代にいくという内容は、まさに “お酒” そのもの!だそうです。(お酒を飲んで、人格も時空も変わることがある・・・)

  • 戻る道は歴史を感じながら

ひととおり見学をさせていただいたあと、もとのショップまで。戻る道では、歴史を感じさせる場所を通り過ぎ、それも印象深いものがありました。

豊島屋酒造の今の蔵はもともとの蔵に増築したものだそうで、なんと蔵の中に昔の蔵があるという不思議な構造にはびっくり(面白い!)。古くから使っている階段や、昭和30年代まで使われていたという昔の井戸などもまた趣きがありました。

酒蔵には松尾様のお札がかけられていることが多いですが、守り神の意味のあるヤモリ(家守)から「屋守」を命名したとのお話も、戻る途中で伺った話です。マレーシアのお客様から、自分の国でも同じ言い伝えがあると聞いて嬉しかったとも伺いました。

酒蔵さんに着いた時の外観の印象もそうですが、蔵の中のそういった歴史を感じさせるものたちは、実際に酒蔵を見に行って初めて知る、酒造りとはまた別の “酒蔵さんごとの面白み”・“酒蔵さんごとの顔みたいもの” だなと感じたりします。

豊島屋酒造 蔵の中に古い蔵
昔の蔵を覆うように増築された蔵。蔵の中に蔵!
豊島屋酒造 年代を感じさせる古い階段
使い込まれた階段
豊島屋酒造 昭和30年代まで使っていた井戸
以前の井戸。今は枯れてしまったけれど台風の時など少し水が上がることもあるそう

見学を終えて

東京都で一番古い酒蔵の見学は、酒蔵さんの信条(?)の「物理は嘘をつかない」がとても印象的でした。

天候も作物も人の行為も全てが繋がっているということですが、毎日・毎年変わる条件の中で “酒質を保つ技術” に対する自負も感じられ、初めて屋守を飲んだ時の印象のとおりに、「強さ」と「面白さ」を感じる酒蔵さんだと感じました。

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見学のあとは、最初のショップに戻って試飲をさせていただきました。試飲についてはまた次の記事でご紹介したいと思います。
試飲でもお酒やみりんに関する(自分にとってはちょっと目から鱗の?)お話も伺え、お酒をいただくのがまた楽しみになる充実の時間でした。
(見学、ありがとうございました)

※豊島屋酒造株式会社さんサイト:
 http://toshimayasyuzou.co.jp/

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